[U]【書評】南直哉・為末大「禅とハードル」

「ただひたすら坐る」という「只管打坐」を謳う道元禅師の永平寺で修行しながら「語る禅僧」の異名を持つ曹洞宗僧侶・南直哉師。
一方、「走る哲学者」とも呼ばれる為末大氏との対談。

面白くないワケがない! と思って読んだら、想像を超える面白さでした。


全体を通してのテーマは「理想と、それを追い求めていく人間との間に横たわっているギャップ」ということになるでしょうか。

アスリートでありながら、「努力して金メダルを目指すことに何の意味があるのか」ってな事を言ってしまう為末氏。

根源的な疑問を抱えつつ、それとうまく折り合いを付けながら競技で実績を残してきた人です。
さすがに投げかける問いには深みがあります。

本文中にも何度となく言及されていますが、為末氏とものの見方や考え方にシンクロするところが多かったんでしょう。
南師の言葉が、我が意を得たり、と言った感じにさまざまな方向へと広がっていきます。

何というか、禅の公案の解題、それもとびきり切れ味の鋭いヤツをシャワーのように浴びた気分になります。

 

個人的には、「言葉」というものに対する二人(特に南師)のスタンスに共感するところが大きいですね。

あなたと私は決して同じ人ではない、その一点で100%完璧なコミュニケーションというものは原理的に存在し得ません。

ましてや、言葉という不完全なツールを使うのですから、どうやってもその実現は「不可能」です。

その「存在し得ない理想」に向かって努力するのが私の商売でもあるんですが、そのときのスタンスという点で、南師の言葉には学ぶところが多い、と感じます。

現実には、努力しても報われることの方が圧倒的に少ないのが人生。

それをどう乗り越えていくか、ひとつの羅針盤になる一冊です。

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