[U]【書評】與那覇潤「史論の復権」

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはビスマルクの言葉ですが、実際に「歴史に学ぶ」とはどういうことなのか。

日本ではずいぶんと前から「歴史ブーム」だそうですし、歴史に題材をとった本は司馬遼太郎氏などの小説をはじめとして結構売れているようです。

ただ、こういう「ブーム」の中で読まれている本というのは視点が比較的単純化されているものが多いのが難点。エンターテイメントとしてはいいんでしょうが、「歴史から学ぶ」という観点からはちょっと……、というものが多いのも事実。

歴史の多面的な姿をさまざまな角度からわかりやすく解きほぐしてくれるのが、この「史論の復権」です。

対談のホスト役となっている與那覇潤氏は、日本の歴史をグローバル化(中国化)と反グローバル化とのせめぎ合いである、という観点からとらえた「中国化する日本」という刺激的な本の著者。

この本は、特に日本の近世から現代に至る歴史について、政治学・民俗学・映画史etc.といった多様な分野の方々と語っていくというものになっています。

こういう「対論集」の場合、「あぁ、この人の話はちょっと面白くないなぁ……」と思う方が一人や二人は混じっているものなんですが、この本は全編にわたって本当に面白く興味深く読めました。

その中でも特に印象に残ったのは以下の3人の方々との対論。


中野 剛志氏(政治学)

TPP反対派の論客として有名な中野氏。
やはり「日本にとってのグローバル化とは何なのか」を語らせると鋭いですね。

世界史における日本の位置付けに関する與那覇氏の見立てと合わせて読むと、問題の本質が見えてくるような気がします。


原 武史氏(戦後史)

原氏は、「団地」などの「場」から政治の有り様を紐解く「空間政治学」の提唱者。

確かに生活空間によって政治的志向が変わる、というのはよくあること。その時間的な変化を「歴史」の文脈の中に置いて見てみると、また違った風景が見えてきます。


片山 杜秀氏(昭和史)

小津安二郎の映画を糸口に、昭和の日本社会の歩みを語り合っています。
小津映画が戦後の、特に高度成長期以降の日本人の有り様を先取りするものだった、という見方はまったくその通り。

映画の作り方という観点から、日本人のクリエイティビティの在り方といった方向にも話が広がっていきます。

 

さまざまな分野の知見を「歴史」という文脈の中に置いて語り合ったこの対論集は、「歴史に学ぶ」方法論の非常に優れたサンプルです。

是非ご一読を。

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