[U]【書評】池内恵「現代アラブの社会思想 終末論とイスラーム主義」

ISIS(イスラム国)の日本人拉致事件を踏まえて、イスラム/アラブ諸国についてきちんと勉強しておかないとイカンなぁ……、ということで、読んでみました。

イスラム教/ムスリムについては、以前に阿刀田高氏の「コーランを知っていますか」を読んだくらいなので、基本の部分をかなりざっくりと知っている程度。

アラブ諸国ではイスラム教が社会・政治の基盤になっていると言われます。
この「社会・政治の基盤になっている」というのが具体的にどういうことなのかは、イスラム教の宗教的な特徴その他を知識として知るだけでは理解できません。

最新のリアルな現実を知る前に、このあたりを把握しておいた方がいいだろう、ということで、この1冊をチョイスしました。

疎外された側からの視点

個人的にこの本で新鮮だったのは、アラブ/イスラム世界自身が西欧世界に対して自分たちをどのように位置づけているか、イスラム側の視点からかなり詳しく書かれている点でした。

世界史の流れを踏まえれば、西欧世界を起点・中心とした発展の大きな流れの流れの中で、イスラム世界が疎外感を感じるのは当然のことではあります。

ただ、日本人は明治以降基本的に西欧の文化・文明の枠組みで発展してきた社会の中で暮らしているため、このあたりがなかなか感覚的にはピンときません。
イスラム教は西欧文明の基盤となっているキリスト教にとって「敵」であったワケで、「敵」に対する理解が乏しくなりがちなのも必然ではあります。

この点、「西側を中心とした世界をイスラム側はどう見ているか」をさまざまな角度と論拠からわかりやすく描き出している本書は秀逸です。

リアリティを伴った「終末論」

本書でかなりの紙数が費やされているのがイスラムの「終末論」を背景にした世界観。

宗教には多かれ少なかれ「終末論」がつきものですが、本書ではイスラムのそれが今もかなりのリアリティを持ってイスラム教徒(ムスリム)に受け入れられている、としています。
実際に、この「終末論」のプロットを現実世界に投影して今後を予想したり、とるべき方向性を主張したりする書籍等がかなり多数出版されている、とのこと。

このあたりは、いわゆるイスラム過激派によるテロの思想的背景の一端を知る上で重要なキーポイントなのでは、と感じました。

2002年発行なので、2010〜2012年に起こった「アラブの春」前後の動きなどはカバーされていません。
そのため、現状をきちんと把握するにはさらにここ数年の状況についての論考などを併せて読む必要があります。
しかし、「アラブ・イスラム世界が何故・どのように今の状況に至ったか」を、イスラム教という宗教とのかかわりから把握していく上では、必読の入門書でしょう。

あ、読むにあたっては、イスラム教の基礎(教祖・教義・聖典の位置付けその他)についての基本的な知識はあった方がベターです。
ある程度の説明はありますが、「一応は知っているもの」として書かれているので、雑学レベルの知識程度は入れておいた方がラクに読み進められます。

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