AI(著者の言う正確な用語を使うなら「AI技術」)の進歩の波に翻弄されている感のある業界に身を置いている自分だが、そうでなくても一読しておくべきであろう1冊。
AIにできること・できないことと「AIに勝つ」方法
著者は「東大入試を突破できるAI」の開発を通じて、AIの可能性を研究してきた数学者。
AIができることと、できないことをきちんと論理的に説明し、AIへの行きすぎた期待に水をぶっかける。
その一方で、AIには偏差値ランキングで中位以下の大学には合格できるだけの能力があり、このレベル以下の人間がやっている仕事はAIに取って代わられる、と警鐘を鳴らす。
AIに取って代わられるないためには、AIが苦手な「言葉の意味を読み取って理解する」こと、つまり「読解力」を武器にする必要がある。
さて、どうすりゃいいんだ? という話。
「え? 私の読解力、低すぎ?」
本書の一番の目玉は、著者が中心になって開発したリーディングスキルテスト(RST)の結果から、「教科書に書いてあることを理解できるだけの読解力がない生徒が少なくないのでは?」(RSTのサイトより)という問題を提起しているところだろう。
そもそも、「書かれていることが理解できているか」を客観的に判断するのは難しい。
たとえば、その「書かれていること」に関して出された問題に対して正解できれば「理解できている」と判断する、といったやり方にどうしてもならざるを得ない。
でも、AIの仕組みを見てみれば「理解していなくても正解できる」ことも少なくない。
そんなこんなで「書かれていることがきちんと理解できているか」をきちんと確認しないままの教育が行われてきてしまったのが一番の問題なんだろうなぁ……。
これ、日本の学校教育が本質的にはほとんど変わらないまま長年過ぎていることを考えると、今の子どもたちだけの問題じゃないかも。
「書かれていることを(自分が正しく)理解できているか否か」は、自分では客観的に判断できない。
「理解したつもり」になっていることも少なくないんじゃないだろうか。
子どもだけの問題じゃなく、大人も自分の読解力を疑ってみる。
AIに負けないようにするには、まずはそこからかもしれない。