[U] 果たされなかった「夢」を引き継ぐには〜読書メモ「マーティン・ルーサー・キング」

アメリカ公民権運動のシンボル、マーティン・ルーサー・キングJr.牧師の伝記。

公民権運動の歴史をざっと俯瞰的につかむのにいいかも、と読み始めたら、思っていた以上に深く考えさせられる1冊だった。


キング牧師について今さら説明は不要だろう。

非暴力闘争によってアメリカで黒人の公民権を確立させた運動家。
ワシントン大行進での演説「I have a dream(私には夢がある)」はあまりにも有名である。
(あの有名な部分は、実は用意した原稿を読み上げた後にアドリブで語られたものだった、というのには驚いた)

しかし、このワシントン大行進とそれを受けた形での公民権法の成立以降も、キングの運動は続いている。
貧困(経済格差)を是正させるために、黒人だけでなくラテンアメリカからの移民やプア・ホワイトも巻き込んだ運動を展開しようとして、その志半ばで暗殺される。

著者によると、現在共有されている「マーティン・ルーサー・キング」像は、「誰もが認めざるを得ない」公民権獲得に向けての運動に取り組んでいたときのキングの姿のみが反映されているもの。
経済格差・貧困への取り組みについては、政治的に衝突する要素が多いため「公的なマーティン・ルーサー・キング像」には映しだされていない、と著者は言う。

キングの死後、白人の中でも経済格差が大きくなり、アファーマティブ・アクションにより「優遇」されるマイノリティに対する反感が募るなど、キングの時代よりも事態は複雑かつ深刻になっている。

キングがたどり着こうとした「夢」からは、むしろ遠ざかっているように見えるこの世界。

死後50年。キングの見た「夢」をもう一度きちんとたどってみる必要がある気がしてならない。

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