東京1泊出張の行程で一気読みしてしまった。
今年これまでに読んだ本の中で一番刺激的な一冊。
ボルネオ島の狩猟採集民「プナン」と暮らす中で見えてきたことをベースにした紡がれるエッセイ集。
筆者はこの「未開」の民族の生活や思考に文明化される以前の始原的な人間社会の姿を見る。
その有様を通してみると、現代の文明社会の中にいる我々の考え方が自明のものではなく、便宜的に後付けされ蓄積されたものであることが浮かび上がってくる。
またプナンの人々の暮らし方は、デカルト、カント、ヘーゲルと続く「近代的自我の存在を基本とした倫理観」から大きく外れている。
タイトルにもある「ありがとうもごめんなさいもいらない」という言葉がそれを端的に物語っている。
近代的自我の存在を前提とした倫理観を覆すものとして、筆者はプナンの生き方をニーチェの思想に対比させており、これがこの本をますます刺激的にしている。
私が四の五の言うよりも、まずは一読してほしい。
特に自分の価値観の根本を大きく揺さぶられる体験をしてみたい人にはうってつけの一冊である。